話したのに、聞いてもらえた感じがしない。そういう日が続くと、この人は自分の話に興味がないのだと思えてきます。ただ、実際にその場で起きていることを細かく見ていくと、聞いていないというより、返ってくるものの種類がずれている場面がかなりあります。ずれの3つの型、相手が聞ける状態にない時間帯、切り出しの一言で先に求めるものを渡す方法、何を言っても取り合わない状態が続く場合の線引き。この4つを順にたどります。
「聞いてくれない」の中身は、3つに分かれている
聞いてもらえないという感覚は、3つの別々の出来事から生まれます。相談として出したのに解決策が返ってくる、話の途中で話題が相手の側へ移る、そもそも反応が返ってこない。どれが起きているかで、打てる手がまったく変わります。まず自分の場面がどれかを分けるところからです。
型ごとに、その場の感じ方も違います。
- 解決策が返ってくる型 つらかった話をしたら「それはこうすればいい」と手順が返る。間違ったことは言われていないのに、話す前より疲れる。
- 話題が移る型 3分話したところで「俺のときはさ」と相手の話に切り替わる。悪気はなく、共感のつもりで自分の似た経験を出している。
- 反応が返らない型 スマホを見たまま「うん」だけが返る。何を話したか翌日に残っていない。
同じ「聞いてくれない」でも、1つ目と3つ目では起きていることが違います。1つ目は聞いた上で処理の仕方を間違えていて、3つ目はそもそも入っていません。ここを混ぜたまま「私の話を聞いて」と伝えると、相手はどこを直せばいいのか分からず、話し合いが空回りします。
思い出せる範囲で、この1週間のうまくいかなかった会話を3つ挙げて、型を振ってみます。3つとも同じ型に寄ることが多いはずです。寄ったところが、いま扱う対象になります。
相談として出したものが、解決策として返ってくる
いちばん多いのがこの型です。こちらは出来事と気持ちを受け取ってほしくて話しているのに、相手は困りごとの報告として受け取って、解決の手順を返す。どちらも相手のためにやっているので、悪意を探しても何も出てきません。ずれているのは目的のほうです。
この型かどうかは、返ってきた言葉を思い出せば分かります。「それって〜すればよくない?」「なんでその場で言わなかったの」「上司に言えば済む話じゃない」。全部、問題を片づけるための言葉です。片づける前に、こちらは事実として起きたつらさを一度そのまま置きたかったのに、その一段が飛ばされています。
一段を飛ばされた側には、自分の感じ方が扱うに値しないものとして処理された感覚が残ります。だから話した後のほうが疲れます。相手は解決の材料を渡したつもりなので、なぜ機嫌が悪くなったのか分かりません。両方が善意で動いていて、両方が損をしています。
変えるなら、話の中身より切り出しの一言のほうです。
「解決してほしいわけじゃなくて、聞いてほしいだけなんだけど、いい?」
「今日あったこと話すね。アドバイスはいらなくて、うんうんって聞いてくれるだけで助かる」
言い回しは自由です。効いているのは、相手が持っている役割の当てが外れる点です。多くの人は、話を振られたら何かを返さないといけないと思っています。返すものを先に指定されると、その負荷が消えます。実際、この一言だけで型1が消える関係はかなりあります。
一度言って通じなくても、失敗にはなりません。定着までに5回から10回はかかります。毎回同じ一言を先頭に置くと、そのうち相手のほうから「これは聞くだけ?」と確認が入るようになります。
相手が聞ける状態にない時間帯がある
同じ人が、同じ話に対して、時間帯によって違う反応を返します。帰宅直後の30分、仕事の連絡を見た直後、寝る直前、休日の午前中で起き抜けのとき。この4つは、多くの人にとって受け取る余裕が最も薄い時間です。切り出す時刻を変えるだけで反応が変わるなら、話の中身のほうに原因はありませんでした。
確かめるには、2週間、話しかけた時刻と、その時の反応の良し悪しをメモします。良かった日と悪かった日で、時刻が偏るかどうかを見ます。偏りが出たら、その時間帯を避けます。
よく出てくる偏りはこのあたりです。
- 帰宅直後の30分は、仕事の頭がまだ切り替わっていない
- 寝る直前は、判断も共感も鈍く、話がこじれやすい
反対に、通じやすい時間として挙がりやすいのは、食後に少し経った時間、休日の午後、一緒に出かけて帰る道中です。手が空いていて、次の予定まで少し間があるとき。この条件が重なるところを探します。
もうひとつ、場所の影響もあります。テレビがついている部屋、相手がスマホを持っている状態、外出先で人の目があるところ。並んで歩いているときや、車の中のように、視線を合わせなくていい場面のほうが話しやすいという人は多いです。
時間帯を変えても反応が同じなら、その線は外れなので、次の手に移ります。
「今から何をしてほしいか」を、話の頭で渡す
話を切り出すときに、求めているものを先に一言で言い渡します。聞くだけでいいのか、意見がほしいのか、一緒に動いてほしいのか。3つのうちどれかを最初に指定すると、相手は返し方を探さなくてよくなります。この一手間で、返ってくるものの精度が上がります。
指定の言い方は、このくらいの粒度にします。
- 聞くだけ 「今日のこと話したいだけだから、うんって言っててくれれば大丈夫」
- 意見がほしい 「どう思うか聞きたい。私はこうしようと思ってるんだけど」
- 一緒に動いてほしい 「これ、来週までに決めたいから一緒に考えてほしい」
やってみると、自分でも何を求めていたのか分かっていなかった、という日があります。それも収穫です。求めるものが定まっていない状態で話し始めると、どんな返答も的を外します。相手の受け取り方の問題に見えていたものが、こちらの側で決まっていなかった、という場合もあります。
話の量にも触れておきます。出来事を時系列で全部話してから本題に入ると、相手の集中は本題の前に切れます。先に「今日ちょっとしんどいことがあって」と結論を置いて、そのあとで経緯を足す順にすると、最後まで持ちます。
話し方の話が続くと、気を張る作業のように感じるかもしれません。目的は自分を作り変えることより、届く経路を1本見つけるほうにあります。経路が見つかれば、あとは楽になります。
言いたいことを毎回飲み込んでしまうほうが手前の問題なら、扱う場所が違ってきます。恋人に言いたいことが言えないときは、口に出す前に止まっている段階を分けていく話で、出したあとに返ってくるずれとは段階が違います。
話しても届かないことが積み重なると、何が減るか
聞いてもらえない状態が半年、1年と続くと、減るのは相手への好意より、話そうとする回数のほうです。話す前に「どうせこう返ってくる」と予測がついて、口に出す手前で止まる。この段階に入ると、こちらが話しかけなくなる分、相手からは何も問題がないように見えます。
まだ言えているうちに伝えておくと、こじれる前に話が済みます。伝える中身は、不満の告発より事実の共有にします。
「最近、話しかける前に諦めることが増えてる。責めてるんじゃなくて、そうなってるって知っておいてほしい」
この形なら、相手に反論の余地が生まれません。起きている事実を渡しているだけだからです。相手の性格を評価する言い方にすると、そこから先は言い合いになります。
喧嘩の形で表に出ているなら、順番が少し違います。恋人と喧嘩が絶えないときのほうが、衝突が起きる条件のほうから見ていく組み立てになっています。衝突にすらならず沈んでいく場合は、ここまでの手のほうが合います。
一緒にいるのに一人でいるような感覚が強いなら、恋人といても孤独を感じるときが近くなります。孤独の出どころを型で分けていく記事で、会話の技術に入る前の段階に当たります。
何を言っても取り合わない状態が続く場合
ここまでの手を試しても変わらない場面があります。求めるものを先に伝えても無視される、時間帯を変えても同じ、話し合いを持ちかけると怒りで打ち切られる。この3つが3ヶ月以上続いているなら、会話の工夫で動く範囲を超えています。
線を引く材料として、次のどれかが起きているかを見てください。
- 話し合いを求めると、声を荒げる、物に当たる、席を立って終わらせる
- 相談した内容を後日、責める材料として持ち出される
- 「そんなこと言ってない」「お前の思い違いだ」と、こちらの記憶のほうを否定される
- 交友関係・連絡先・お金の使い方について、報告や許可を求められる
- 話が通じないのは自分の説明が下手だからだと、いつのまにか思わされている
3つ目と5つ目が重なっているなら、会話の改善を続ける段階を超えています。自分の受け取り方の問題だと考えるのをいったん止めて、外の窓口に事実を話してみてください。
- DV相談ナビ #8008(最寄りの相談機関につながります)
- DV相談+ 0120-279-889(24時間、通話無料。メール・チャットもあります)
- こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556
窓口への連絡と、別れるかどうかの決断は切り離して考えられます。今の状態を外の人に一度言葉にしてみる、という使い方もできます。相談したうえで関係を続ける人も普通にいます。
眠れない、食べられない、仕事に行けない。このどれかが2週間以上続いているなら、関係の整理より先に、体のほうを診てもらってください。ここに書いたことは生活の範囲で状況を見るためのもので、診断や治療の代わりにはなりません。
よくある質問
「聞いてほしいだけ」と伝えると、面倒だと思われませんか
最初の数回は戸惑われることがあります。ただ、返す内容を求められていないと分かると、多くの人はむしろ気が楽になります。返答を考えなくていいからです。面倒がられるのは、求めるものを言わないまま反応の質を採点されるときのほうです。
何度言っても解決策で返してきます
3回伝えて変わらないなら、意識の問題より癖の強さの問題です。話の途中で一度だけ「今は聞くだけのやつ」と挟むと、その場で戻ってくれる人もいます。全部を一度に直すより、1回の会話の中で1回だけ軌道修正するくらいが、続けやすい量です。
自分の話が長いから聞いてもらえないのでしょうか
長さそのものより、結論が後ろにあるかどうかのほうが影響します。先に「しんどいことがあった」と置いてから経緯を足すと、同じ長さでも最後まで持ちます。試すなら、次の1回で順番を入れ替えてみると違いが分かります。
相手が疲れているときは、我慢したほうがいいですか
その日は避けて、翌日の別の時間に回すほうが、双方の消耗が少なく済みます。避け続けて話す機会が月に1回もなくなっているなら、それは配慮より我慢の蓄積です。週に1回、15分でいいので時間を決めて確保するほうが続きます。
話を聞いてくれる友人がいれば、それで足りますか
日々のことなら足ります。けれど、二人の間で決めることや、生活に関わる話は、友人が引き受けても前に進みません。中身によって話す相手を分ければよく、全部を一人に持っていかなくても回ります。

