昨日は普通に笑えていたのに、今日はベッドから出るところで止まっている。同じ一週間のなかで落差が大きいと、どちらが本当の自分なのか分からなくなってきます。この記事では、波そのものを平らにする方法は扱いません。上がっている日のうちに、落ちた日の過ごし方を決めておく。順番としては、調子のいい日にやっておくこと、落ちてくる兆しの拾い方、落ちた日の最低ラインの決め方、という並びで見ていきます。
気分の波は、平らにしなくていい
波の高さを下げることを目標に置くと、落ちた日そのものが失敗の記録になってしまいます。この記事で目標に置くのは、落ちた日の過ごし方のほうです。
気分に波があること自体は、多くの人に起きています。生活を削るのは落差の大きさよりも、落ちた日に何をしていいか分からなくなる時間のほうです。予定を入れたまま動けない。約束を断って自己嫌悪が乗る。ふだんなら送らない文面を送って、翌日それを悔やむ。波の被害は、たいていこの二次的なところから出てきます。
だから、手をつける場所を移します。振れ幅そのものを管理しようとすると、調子のいい日にも「またすぐ落ちるはずだ」という監視がついて回ります。振れ幅は残したまま、落ちた日にとる行動だけを先に決めておく。決め事があるところだけ、被害が小さくなります。
切り分けをひとつ置いておきます。何が心配なのか分からないまま緊張だけが毎日続いている状態は、波というより別の形をしています。そこを扱っているのは漠然とした不安が消えないのはのほうです。
上がっている日にしか決められないことがある
落ちている最中の自分には、選ぶ・比べる・決めるという作業が重すぎます。決め事を作る作業は、頭が動いている日にまとめて済ませておくのが現実的です。
落ちた日に「今日はどうしよう」と考え始めると、そこから消耗が始まります。何を食べるか、休むか出るか、誰に連絡するか。ふだんなら数秒で片づく判断が、その日はひとつずつ体力を持っていきます。決めきれないまま夕方になり、何もできなかった一日として記憶に残る。
上がっている日の自分は判断が速く、自分に対しても寛容です。同じ状況を見ても「今日は休んでいい」と言えます。その時期の自分に、落ちた日の分の判断をさせておく。それがこの記事の設計です。
注意点がひとつあります。上がっている日は予定を詰めたくなりますが、その予定は落ちた日の自分が引き受けることになります。上がっている日にやることの半分は、拡張よりも準備に回したほうが後々きいてきます。
具体的には、翌週の予定を入れるときに、空白の日をひとつ残しておくこと。落ちた日がその空白に当たれば、断るという作業がまるごと消えます。当たらなければ、休みが一日増えるだけです。
上がっている日に書いておく、自分あての覚え書き
調子がいいうちに、落ちた日の自分に向けたメモを1枚だけ作ります。中身は、その日に選んでいい行動の一覧にします。
スマホのメモでも手帳の裏表紙でも構いません。落ちた日に開くだけで済むよう、置き場所は固定します。
- 食べられるもの: 調子が悪い日でも口に入るものを3つ。買い置きできる形で書く
- 連絡していい人: その日の自分を見ても引かない相手の名前。1人で足ります
- 行っていい場所: 家の外で、誰とも話さずに座っていられる場所
- 見ないもの: その日に開くと確実に落ちる画面やアプリの名前
- しない判断: 落ちている日には決めないと先に決めておくこと
最後の項目が、いちばん効きます。落ちている日の判断には、その日の気分の色がついたまま残ります。退職、別れ話、大きな買い物。「この手の決断は落ちた日にはしない」と先に決めておけば、迷う作業そのものが発生しません。
こつは、落ちた日の自分が読める短さに収めることです。命令形も避けます。「起きろ」と書いてあると、起きられなかった事実だけが残ります。「起きられたら」から始まる文にしておくと、読める日が増えます。
落ちる前の数日に、生活のほうが先に変わる
落ちてくる兆しは、気分の自覚より先に、生活の細かい動作のほうに出ます。拾う対象は気分の変化より、行動の変化です。
気分が下がったと自分で気づく頃には、たいてい落ち切っています。その2〜3日前に生活の側で小さな変化が起きていることが多く、そこは記録で拾えます。
まず、直近で大きく落ちた日を3回思い出します。それぞれの2〜3日前に何をしていたか、スマホの履歴から拾えるものを並べます。歩数、就寝時刻、SNSを開いていた時間、送ったメッセージの数、写真を撮った枚数。記憶より、残っている数字のほうが正確です。
並べると、自分に固有の先行サインが浮かびます。よくあるのは次のようなものです。
- 寝る時刻が2日続けて1時間以上遅くなった
- 返信を「あとで」と思って画面を閉じる回数が増えた
- 部屋の同じ場所に、ものが積み上がり始めた
- 湯船に浸かる日が減って、シャワーだけになった
- 音楽やドラマを、途中で止めることが増えた
- 予定を入れるときに、断る理由を先に考えるようになった
採点するための項目ではありません。もう薄々感じていることを、言葉の形にして外に出すための項目です。
当てはまるものを2つか3つ選んで、それを自分の兆しと決めます。2つ以上が同時に出た週は、覚え書きを開く週だと決めておく。早めに気づけると、落ち方が浅く済むことがあります。
夜の画面が先行サインに入る人は多いところです。開いている時間が伸びる日が落ちる数日前に来るなら、SNSを見ると疲れる夜のほうに、閉じ方の話をまとめてあります。
落ちた日の最低ラインを、どこに置くか
落ちた日にやることは、数を絞って先に決めておきます。その日の合格ラインは、3つまでにします。
高さは、いちばん落ちた日の自分でも届く位置に置きます。ふだんの7割だときついので、2割くらいがちょうどいい目安です。
- 水を飲む
- 何かを口に入れる(内容は問わない)
- カーテンを開ける、または外の空気に1分あたる
これだけです。この3つが済んだら、その日は達成した日として記録します。仕事や家事が進まなくても、記録の上では同じ扱いにします。
高く置きすぎると何が起きるか。落ちた日に届かず、「できなかった日」が積み上がって、次に落ちたときの自己嫌悪が増えます。最低ラインの目的は、落ちた日を失敗として記録させないところにあります。
もうひとつ決めておくと楽なのが、落ちた日に使っていい逃げ道です。冷凍食品で済ませる、宅配に頼る、予定を1つ断る、風呂を明日に回す。事前に自分へ許可を出しておくと、実行したときの罪悪感が減ります。落ちている日に自分と交渉するのは、いちばんコストの高い作業です。
記録は一行で足ります。日付と、○か×か、あとは一言。「10/6 ○ 水・パン・窓を開けた」。数か月分たまると、落ちやすい時期や間隔が、自分の目で見えるようになります。
ただ、この3つすら重い日が2週間以上続いているなら、扱う対象が変わります。休んでも戻らない疲れが土台にあるなら、燃え尽き症候群からの回復に必要だったものに手順を書いてあります。
周りの人に、どこまで伝えておくか
落ちた日に事情を説明する体力は残っていないので、伝える内容も上がっている日に決めておきます。伝えるのは事情より、その日に取ってほしい対応です。
波があること自体を細かく共有しなくても、相手に要るのは、その日にどうしてほしいかの一点です。
- 「返信が遅れる日があるけど、怒っているわけじゃないから気にしないでほしい」
- 「調子が落ちてる日は、電話じゃなくてメッセージだと助かる」
- 「一人になりたい日はそう言うから、そのときは深く聞かないでほしい」
伝える相手は絞ります。全員に共有すると、こんどは心配されていること自体が負担になります。ふだん連絡を取る相手のうち、1人か2人で足ります。
職場については、事情を話すかどうかを決める前に、落ちやすい時期に大きな会議や締め切りを置かない工夫のほうが先に効きます。
パートナーがいる場合、落ちた日に相手へ向かってしまう言葉があります。上がっている日に「あの日に出る言葉と、ふだんの気持ちは別だ」と伝えておく。落ちた日にその場で説明するより、ずっと通じます。
受診を考えたほうがいい観察事実
気分の波は、身体の状態やホルモンの周期の影響を受けることがあります。目安になるのは気分の強さより、続いた日数と、生活が回っているかどうかです。
次のような観察事実があるときは、自分で整理する前に、一度診察を受けたほうが早く進みます。
- 落ちた状態が2週間以上、ほぼ毎日続いている
- 睡眠時間が極端に変わった。何時間でも眠れる、または2〜3時間で目が覚める日が続く
- 仕事、家事、食事のどれかが、実際に回らなくなっている
- 眠らなくても平気な時期が数日あり、あとから見て不自然な出費や約束が残っている
- 落ち込む時期が月経の周期と重なっていて、毎回同じあたりで強く出る
- 動悸、強い倦怠感、体重の急な増減など、身体の変化が一緒に起きている
- 自分を傷つける考えが浮かぶ。この項目だけは、日数を待たずに今すぐ相談してください
窓口は、出方によって選べます。周期と重なるなら婦人科、気分の落ち込みや睡眠の変化が中心なら心療内科か精神科。どこへ行けばいいか迷う段階なら、お住まいの地域の精神保健福祉センターが、相談先の整理から付き合ってくれます。かかりつけ医に先に話すのでも構いません。
- こころの健康相談統一ダイヤル 0570-064-556。かけた場所の都道府県の相談窓口へ転送されます
- よりそいホットライン 0120-279-338。24時間つながり、通話料はかかりません
ここに書いたことは、生活の範囲で自分の状態を見るためのもので、診断や治療の代わりにはなりません。原因がどこにあるかを見分けられるのは、診察した医師だけです。気分の波を気の持ちようの話に片づけてしまうと、身体側の要因が見過ごされたまま何年も過ぎます。記録した一行のログや、先行サインのメモがあれば、診察の場でそのまま材料になります。
よくある質問
波そのものは、いつかなくなるのでしょうか
なくなる前提で計画を立てると、落ちた日のたびに計画が崩れます。波の間隔や深さは生活の条件で変わりますが、扱いやすくなるのは、落ちた日の決め事が増えたときのほうが先です。
上がっている日に、準備をする気になれません
上がっている日は、その調子を使い切りたくなるので自然な反応です。準備の量を「メモを1行足す」まで下げてみてください。覚え書きは一度で完成させる必要がなく、上がった日ごとに1行ずつ増えれば足ります。
家族から「気分屋」と言われるのがつらいです
性格の話として扱われると、対処のしようがなくなります。伝え方を「今日は落ちている」から「今日は返信が遅くなる」へ変えると、相手が受け取るのは状態の説明ではなく行動の予告になり、話が具体的になります。
記録をつけても続きません
続かない原因は、たいてい書く量です。日付と○×と一言、という形まで削ると残ります。落ちた日に書けなかった分は空欄のままにして、後から埋めないと決めておくと、記録そのものが負担に変わりにくくなります。

